多様な人材の確保が企業成長にとって重要な要素となる昨今ですが、安易な人材採用は、人に起因するレピュテーションリスクの増大や、採用の公平性を阻害するリスクをはらんでいます。本コラムでは、採用選考の過程で採用候補者に対して実施される「バックグラウンドチェック」とはどのような調査であるかをご紹介し、その調査内容やフロー、関係する法律などを解説します。
エン・ジャパンのバックグラウンドチェック
ASHIATOでは、上場企業としての法律遵守・セキュリティ観点での信頼性を担保した、安心のバックグラウンドチェックを提供しています。採用におけるリスクを事前に発見し、コンプライアンス強化にお役立ていただけます。
バックグラウンドチェックのメリット・情報取得の流れなど、詳細を知りたい方はぜひご覧ください。
バックグラウンドチェックとは?
「バックグラウンドチェック」は採用候補者の身元調査のこ
とで、雇用調査や採用調査と呼ばれることもあります。候補者の経歴や身辺に詐称や問題がないか、第三者機関の調査や候補者本人による証拠書類提出によって確認します。バックグラウンドチェックの実施は海外では珍しいことではなく、アメリカだと95%の企業で、何らかのバックグラウンドチェックを行っており、正社員だけでなくパートタイムの従業員にも行われている一般的な採用手法です。 バックグラウンドチェックの効果
近年日本でバックグラウンドチェックが注目される背景として、「企業コンプライアンスの強化」と「採用の強化」の2点が挙げられます。そしてこの2つは密接に結びついています。
企業コンプライアンスの強化
昨今、企業のブランド力やイメージが重要視されるようになり、一部の「問題社員」「モンスター社員」が引き起こす問題行動が会社に与えるダメージは以前よりも大きくなっていると言えます。またSNS等の普及で、問題が世間一般に広まるスピードも格段にアップしています。
また、政府が反社会的勢力との繋がりを厳しく罰する指針や法律を定め、いわゆる反社チェックの重要性も高まっており、このような企業コンプライアンスに関する社会情勢の変化がまさにバックグラウンドチェックへの関心を高める要因となっています。
▼「反社チェック」のより詳しい記事はこちら
採用の強化
急激に加速するDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が日本企業に押し寄せ、ITエンジニアをはじめとするデジタル人材の採用が多くの企業で急務となっています。一方で即戦力となるデジタル人材をめぐっては争奪戦が繰り広げられており、結果的に慢性的な人手不足となっている企業が多くあります。
同時に、日本では転職が一般化しつつあり、新卒一括採用に限らず継続的に良い人材を採用することが重要になっています。そのため採用での「見極め精度の向上」「採用の効率化・スピードアップ」が求められています。
このように、「コンプライアンスの強化」と「採用の強化」というブレーキとアクセルを同時に踏まざるを得ない状況が、まさに効率的に実施できるバックグラウンドチェックサービスを求める背景になっていると考えられます。
バックグラウンドチェックを行う理由
すでに実施している企業は、どのような理由でバックグラウンドチェックを行っているのでしょうか。大きく2つの理由をご紹介します。 正確な経歴を確認し、公平な採用を行うため
求職者が自分で記入する履歴書では、学歴や職歴の経歴詐称も可能ですし、面接で不都合なことを言わずに隠すこともできてしまいます。一部の採用候補者による詐称や隠蔽、誇張によって採用の公平性が失われることがないよう、バックグラウンドチェックで情報の正確性を担保します。
▼「経歴詐称」についてのより詳しい記事はこちら
企業防衛のため
過去に犯罪や大きなトラブルを起こしたことがないか、反社会勢力との関係がないかなど採用前に確認することで、採用後に社内の混乱や業務上の損害が発生することを防ぎます。
また、アメリカなどでは「ネグリジェント・ハイヤリング(怠惰雇用)」という考え方があり、バックグラウンドチェック等の採用前の調査を行わないことで損害や事故が生じた場合、企業側も責任を問われます。例えば、従業員が過去に起こした犯罪と同様の犯罪を再度犯してしまった場合、採用前の調査を行わなかった企業にも責任があると考えるのです。また、リファレンスチェックサービスASHIATOが人事担当者に実施したアンケートでは『人事担当者の84.0%が採用時の経歴・実績確認に不安を感じている』という結果も出ています。こういった背景から、安心して採用を行うためにバックグラウンドチェックを実施している、という企業もあります。
バックグラウンドチェックとリファレンスチェックの違い
バックグラウンドチェックと似た言葉に「リファレンスチェック」があります。バックグラウンドチェックと同様に採用前の候補者を対象として実施する調査ですが、内容は少し異なります。「リファレンスチェック」は前職の上司や同僚、部下、取引先等の候補者をよく知る人に質問をして、仕事ぶりや人柄、経歴等を確認する手法です。バックグラウンドチェックはマイナスな要素がないか確認するネガティブチェックの意味合いが強いですが、リファレンスチェックではプラスの要素も同等に情報収集します。両者は明確に区別されているわけではなく、例えば、バックグラウンドチェックの中に前職での状況を確認するためのリファレンスチェックが含まれていることもあれば、リファレンスチェックの中に経歴に相違がないか確認するバックグラウンドチェックが含まれていることもあります。 バックグラウンドチェックの調査内容
バックグラウンドチェックでよく行われる調査内容についてご紹介します。
経歴相違(学歴・職歴)
本人に卒業証明書や源泉徴収票、資格の証明書を提出してもらい、履歴書の経歴と相違がないか確認します。SNSの投稿や前職の企業への聞き込みをもとに詐称の疑いがないか調査することもあります。
前職の勤務態度
前職での勤務態度や実績について、前職の上司や同僚に電話やオンラインアンケートで確認します。
登記情報
法務局で一般公開されている登記簿で、不動産の所有状況を調べます。本人所有の不動産が差し押さえられていた場合、登記簿で確認できます。
インターネット・SNS調査
インターネットやSNSの調査で過去に大きなトラブルがないか調査します。SNSではプライベートで見せる性格上の問題や、交友関係のリスクがわかることもあります。
近隣調査
本人の自宅近辺で居住の実態や普段の生活状況を確認したり近隣住民に聞き込み調査をしたりします。
犯罪・軽犯罪 歴
日本では犯罪歴は非公開なので、インターネットやSNS、新聞などのメディア情報を調査します。
民事訴訟歴・破産履歴
最高裁判所以外の判決記録をバックグラウンドチェックのために調べるのは仕組み上困難です。一般公開されている最高裁判所の判決記録や、新聞などのメディアの情報、調査会社独自のデータベースをもとに民事訴訟歴の調査します。
また、官報に自己破産の情報が載っていないか破産履歴の調査します。
反社チェック
反社会的勢力と何らかの関係を持っていないか、メディアの情報や反社チェックサービスの独自データベースなどで調べます。
バックグラウンドチェックはどこまで厳しく調査する?
バックグラウンドチェックの実施にあたり、他社ではどこまで調査しているのか気になる採用担当者の方や、自分はどこまで調査されるのか不安な求職者の方は多いと思います。
バックグラウンドチェックの内容は業種や役職によっても異なります。公的な信頼性が求められる業種や、トラブルが大きな損害につながる可能性が高い業種であれば調査内容は厳しくなります。銀行等の大きなお金を扱う金融機関や、法律で欠格事由が定められている警備員などでは他の業界よりも厳しいバックグラウンドチェックが実施される傾向にあります。
また、高い役職の人がトラブルや事故を起こした場合は企業の信用やブランドを大きく毀損してしまうため、役職者の採用では通常よりも厳しいバックグラウンドチェックが行われるケースが多いです。
バックグラウンドチェックは違法ではない?
バックグラウンドチェックは正しい方法で行えば違法ではありませんが、個人情報保護法、職業安定法、厚生労働省の指針など、関係する法律が複数あります。第三者の調査会社にバックグラウンドチェックを代行してもらう際は、適切に法令を遵守している調査会社に依頼しましょう。また、バックグラウンドチェックで調査する内容には個人情報が多く含まれているため、採用候補者に利用目的を説明し、本人の同意を得て、個人情報保護法に抵触しないようにします。特に、「要配慮個人情報」の取り扱いは注意が必要です。本人の同意を得ずに取得することはできません。 この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。
引用元:『個人情報保護法 第二条』
また、職業安定法も考慮し、採用選考に必要な範囲の情報のみを調査するようにします。
公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事 業者及び労働者供給を受けようとする者(次項において「公共職業安定所等」という。)は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(以下この条において「求職者等の個人情報」という。)を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
引用元:『職業安定法 第五条の四 』
バックグラウンドチェックは拒否できる?
候補者がバックグラウンドチェックを拒否することは可能ですが、何か問題を隠しているのではないかと不審に思われる可能性は高いです。ただ、バックグラウンドチェックの内容の一部に懸念がある方もいらっしゃると思います。その場合は、「在職中のため、調査のための連絡で勤務先に転職活動が知られるのは困る」など、誠意をもって理由を話し、他の調査方法で代替できないか相談してみましょう。▼「バックグラウンドチェックは拒否できる?」の関連記事はこちらリファレンスチェックは断れる? 拒否されてしまった場合の対処法について バ ックグラウンドチェックを行うタイミング
採用選考の中でバックグラウンドチェックを行うのはどのタイミングがいいのでしょうか。後述する通り、バックグラウンドチェック後に内定取り消しを行うには合理的な理由が必要です。内定取り消しによる候補者とのトラブルを防ぐためにも、内定を出す前(最終面接前など)にバックグラウンドチェックを行うのがおすすめです。もちろん、内定後、入社までの間に経歴詐称等の疑いが生じた場合はそのタイミングでバックグラウンドチェックを行う場合もあります。▼「バックグラウンドチェックを行うタイミング」の関連記事はこちらリファレンスチェックを行う最適なタイミングと質問内容を解説! バックグラウンドチェックで内定取り消しはできる?
バックグラウンドチェック後の内定取り消しは可能ですが、内定は労働契約とみなされるため、「労働契約法」を遵守する必要があります。解雇に合理的な理由がない場合は解雇権の濫用にあたるため、重大な理由がない限りはバックグラウンドチェック後の内定取り消しは避けたほうがよいでしょう。
(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:『労働契約法 第十六条』
バックグラウンドチェック実施の流れ
実際にバックグラウンドチェックを実施する場合、どのような流れで行えばよいのでしょうか。ここでは、実施方法について解説します。 バックグラウンドチェックの実施方法を決める
バックグラウンドチェックを行う場合、実施方法には大きく3つの選択肢があります。
自社で実施する
バックグラウンドチェックを自社リソースのみで実施する、という選択肢があります。その場合は、候補者と直接調査に関するやりとりを行い、場合によっては候補者の現職(前職)の企業に電話等で連絡する必要 があります。
自社で実施すると社外への支払いは発生しませんが、担当者の業務が増えることや、法令を遵守した実施ノウハウの蓄積に時間がかかること、採用選考のスピードが落ちてしまいがちなこと、などを考えると簡単な方法とは言えません。
調査会社を利用する
調査会社を利用する場合は、聞き取りをはじめとする背景調査を代行してもらうことができます。調査ノウハウを持った調査員が実施することで、詳細なレポーティングが期待できますが、その分コストはかかります。調査の内容や方法によって費用は異なりますが、1件あたり3万円~10万円程度のプランが多くみられます。
オンラインサービスを利用する
オンライン完結するバックグラウンドチェックサービス、ないしはバックグラウンドチェック機能を持つリファレンスチェックサービスの利用が昨今の主流になりつつあります。これらを利用する場合、採用企業側は簡単な情報入力を行うのみで、同意の取得や、関係者への連絡がWEBツール上で完結し、スピーディに調査を行えます。
バックグラウンドチェック実施フロー
以下で、調査会社に委託する場合とオンラインサービスを利用する場合の両方について、おおまかな実施フローを紹介します。
実施企業が採用候補者から同意を得る
実施主体となる企業が、個人情報保護法に抵触しないよう候補者にバックグラウンドチェックを行う目的を説明し、本人の同意を得ます。
調査会社に依頼 / オンラインサービスに必要情報を登録
実施企業が候補者について確認したい項目を決め、調査会社に具体的な調査内容を依頼します。
一方オンラインサービスを利用する場合は、調査項目をツール上に入力し、候補者に連絡します。調査前の事前準備が圧倒的に楽な点は、オンライン型採用調査サービスのメリットと言えます。
実査
調査会社に依頼した場合は、企業から採用候補者の履歴書や職務経歴書を調査会社へ提出し、その情報を元に、契約にもどづいた項目の調査を実施 します。
レポーティング
調査会社に依頼した場合は、事前にすり合わせた内容でレポートが提出されます。レポートには調査会社が持つ独自のノウハウ・観点が盛り込まれるでしょう。
一方オンラインサービスの場合は、サービスの改善PDCAが多く回されていることが多く、見やすいインターフェースで活用しやすい状態のアウトプットが期待できる、というメリットがあります。
バックグラウンドチェックに必要な期間と費用
調査会社に依頼した場合の期間と費用の目安です。
期間
調査内容によりますが、依頼後、数日から1週間でレポートをもらえることが多いです。
費用
期間と同じく調査内容によって異なりますが、基本的な調査であれば3~5万円程度、重要なポストの採用候補者について詳しく調査する場合は5~10万円程度かかるケースが多いです。
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