リファレンスチェックとは?
「リファレンスチェック」という言葉自体を聞き慣れない方に向けて、まずはリファレンスチェックとは何かを説明していきます。
前述のとおり、リファレンスチェックとは、主に中途採用において、候補者の企業とのマッチ度を見極めるために、前職の同僚や上司に対して、働きぶりや業務内容をヒアリングする採用手法です。面接や面談では得られない、第三者の客観的な視点での情報を得られるため、入社後の働きぶりや活躍のイメージ、会社の価値観や周囲のメンバーとの相性などを判断するために活用されています。
海外では約95%の企業がこのリファレンスチェックを採用時に導入しており、正社員に限らず、アルバイトの採用時も活用されているほど主流になってきています。日本においても、コロナ禍で採用活動のオンライン化が促進する中で、リファレンスチェックの注目度が上昇しています。
リファレンスチェックを実施するメリットとは?
リファレンスチェックの最大のメリットは「候補者と企業のミスマッチを減少させること」と言えるでしょう。採用でミスマッチが発生した場合、候補者にとってはもちろんですが、企業側にとっても大きな損失を生んでしまうことになります。例えば1人の社員を採用できたが、入社後3ヶ月で離職してしまった場合、187.5万円の損失が発生するという試算もあります 。採用には時間もコストもかかるため、どんなに優秀な人を採用できても、早期退職してしまうと大きな損失を生んでしまうのです。
ではなぜリファレンスチェックがミスマッチを減少させられるのでしょうか。その理由は、主に以下の2つです。
1.候補者の伝達精度が向上する
採用の場において、候補者が自分をよく見せたいという気持ちから、履歴書や職務経歴書に事実と異なる内容や誇張した実績を記してしまうことがあります。これらはいき過ぎた場合「経歴詐称」になりますが、本人が記載した書類とリファレンスチェックによってヒアリングした内容を照らし合わせることで、この経歴詐称を発見できる可能性が高まります。また、そもそも虚偽記載の抑止 となることも、リファレンスチェックのメリットと言えるでしょう。
また、候補者が自身の実績やスキルを十分にアピールしきれなかった場合でも、リファレンスチェックによるヒアリングで本人がアピールできなかった実績を正しく把握できることもあります。
2.採用側の見極め精度が向上する
リファレンスチェックは、面接官の主観に過度に依存することを防ぎ、客観的なインタビュー情報を活用できる点で、採用の見極め精度向上に寄与します。
また、昨今増加するオンライン選考では、候補者の表情やしぐさ、雰囲気が伝わりにくく、そもそも選考で得られる情報量が不足することが問題視されていますが、多角的な質問で構成されたリファレンスチェックを導入することで、質の高い客観情報を数多く取得でき、このこともまた見極め精度向上に繋がります。
エン・ジャパンが2024年7月に、リファレンスチェック導入企業200社の人事担当者に行ったアンケートを見ても、スキルの確認や、面接時評価とのギャップの確認に利用されていることがわかります。
リファレンスチェックは違法か?
リファレンスチェックは個人情報を扱うため、実施を検討する際、違法性がないか不安に思う方も多いかもしれません。ここでは、リファレンスチェックの適法性と、実施する上で押さえておくべき法律を説明します。 リファレンスチェック自体に違法性はない
前提として、リファレンスチェック自体を禁止する法律はありません。上述のように、適切に行われる採用調査は候補者にとってもメリットのあるものであり、正しい範囲内で行われる限りは違法ではありません。
しかし、個人情報保護やプライバシー保護と関わりが深い調査であることもまた事実です。リファレンスチェックを自社内で実施する場合、または外部委託する場合を問わず、法に抵触するリスクがない実施方法であるかを慎重に吟味する必要があるでしょう。
リファレンスチェック後の内定取り消しには合理的な理由が必要
リファレンスチェックの結果を踏まえて、一度内定を出した候補者に対して内定の取り消しを行いたい場合、慎重な検討が必要になります。内定も労働契約とみなされるため、合理的な理由がない場合は解雇権の濫用にあたる可能性があるからです。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:『労働契約法 第三章 労働契約の継続及び終了』
▼「リファレンスチェックの内定取り消し」 のより詳しい記事はこちら
同意を得ないと個人情報保護法に抵触することも
リファレンスチェックで扱う情報は個人情報を含むため、関係者への同意を得ないまま実施してしまうと、個人情報保護法に抵触する場合があります。
そのため、リファレンスチェックを実施する際は、利用目的や範囲を説明した上で、候補者からの同意を必ず得るようにしましょう。もし事前に説明した利用目的や範囲を超えて情報を扱いたい場合は、再度本人への説明と同意獲得が必要です。
特に、採用候補者本人に差別や偏見などの不利益が生じないよう、「要配慮個人情報」の取り扱いは注意が必要です。
この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないよ うにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。
引用元:『個人情報保護法 第二条』
また、個人情報保護法には「第三者提供の制限」があるため、本人の同意なく第三者に提供することは禁じられています。この法律は、リファレンスチェックを実施する側ではなく、リファレンスチェックの回答を行う前職の企業などが遵守する必要があるものになります。そのため、本人の同意が無い場合は回答に応じてもらえないので注意が必要です。
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
引用元:『個人情報保護法 第二十七条(第三者提供の制限)』
▼「リファレンスチェックの同意と個人情報保護」のより詳しい記事はこちら
リファレンスチェックを違法性なく実施するための注意点
ここまで、注意すべき法律をご紹介してきましたが、これらの法律に抵触することなく、違法性なくリファレンスチェックを行うための注意点をまとめていきます。
内定前にリファレンスチェックを実施する
前述のとおり、労働契約法の観点から、内定を出した後にリファレンスチェックを実施し、その結果を受けて内定を取り消すには、合理的な理由が必要になります。
そのため、トラブルを避けるためにも、リファレンスチェックを実施するタイミングは「内定前」にすることを推奨します。
同意を得た上で実施する
前述のとおり、個人情報保護の観点からリファレンスチェック実施前には、利用目的と情報の使用範囲を候補者に伝達し、実施に関して同意を得る必要があります。
また同意を得る際には、候補者が持つリファレンスチェックへの抵抗感や不安感に注意することも、リファレンスチェックが一般化していない日本においては大切でしょう。候補者が在職中に転職活動をしている場合は特に、その活動を上司や同僚に知られたくない、頼める人がいない、となる可能性もあります。中にはリファレンスチェックを拒否したいと言われてしまうケースもあるでしょう。そういった場合は、あらかじめ指定した推薦者以外でリファレンスチェックを依頼できる相手がいないかを、候補者に検討してもらうという選択肢もあります。
>採用候補者へのリファレンスチェックの依頼については、こちらも参考にご覧ください
情報の取り扱い方法を定める
リファレンスチェックで取得した情報は個人情報保護法の規定に沿った取り扱いが必要となり ます。
社内の認識が統一されていないことによって、個人情報保護法に抵触してしまうリスクを避けるため、社内体制や情報の取り扱いに関するルールの整備と認識統一を徹底して行うことを推奨します。リファレンスチェックの情報は、採用に関わる部署だけでなく、オンボーディングに関わる部署など幅広く取り扱われる可能性が高いため、社内体制の整備を進めてから実施するようにしましょう。
リファレンスチェックで取得してはいけない質問に注意する
面接と同様に、適性と能力に関係がない事項をヒヤリングすることは就職差別につながる可能性があるので、注意が必要です。
厚生労働省の「校正な採用選考の基本」には、次のように定められています。
<a.本人に責任のない事項の把握>
・本籍・出生地に関すること (注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)
・家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近隣の施設など)
・生活環境・家庭環境などに関すること
<b.本来自由であるべき事項( 思想・信条にかかわること)の把握>
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条などに関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
リファレンスチェックを断られた場合の対処法
候補者の同意を得られず、断られてしまった場合は、どのように対処すれば良いでしょうか。リファレンスチェックの拒否は、1つの意思表示にはなりますが、それをどう評価するかは企業の判断になります。
リファレンスチェックを断られた場合は、一律「問題あり」と判断するのではなく、拒否する背景に寄り添って柔軟に対応しましょう。
リファレンスチェックを拒否される理由としては、例えば下記のようなことが考えられます。
・リファレンスチェックについて理解がなく、依頼されたことに不信感がある
・在職中に転職活動を行っており、上司や同僚に転職活動中であることを知られたくない
・回答を依頼できる上司 や同僚がいない
・応募書類や面接で誇張して伝えてしまっているため、リファレンスチェックでの発覚を恐れている
理由によっては、リファレンスチェックの回答を依頼する人の選択肢を広げてもらうなど、企業側も柔軟に対応することが大切です。
>採用候補者へのリファレンスチェックの依頼については、こちらも参考にご覧ください
リファレンスチェックガイドー採用候補者への依頼編ー関連記事:
リファレンスチェックは拒否できる? 断られた場合の企業の対処法についてリファレンスチェックを外部委託、またはオンラインサービスを選定する際の注意点
リファレンスチェックを外部に委託したり、オンラインサービスを活用する場合、調査会社や運営会社が法律を正しく理解して調査を実施しているか、チェックする必要があります。
個人情報保護法においても、委託元である企業の「委託管理責任」が明記されています。
個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。
引用元:『個人情報保護法 第二十五条(委託先の監督)』
委託先の瑕疵で、本来取得してはいけない個人情報を取得したり、情報管理に不備があった場合でも、採用企業の責任が問われる可能性があります。委託先のコンプライアンス体制、調査業務の実績、上場の有無、プライバシーマークのような第三者認証を取得しているか、といったセキュリティや信頼性の観点を慎重に見極める必要があるでしょう。>リファレンスチェックサービスの選び方については
こちらの資料をご覧ください リファレンスチェックなら『ASHIATO(アシアト)』
本コラムでは、リファレンスチェックの違法性の有無や、実施の際の注意点を説明しました。リファレンスチェックで扱う情報は個人情報にあたるため、関連する法律をしっかりと理解し、違法性なく進めるために注意すべき点や整備しておくべき事項があります。リファレンスチェックを実施する手段として、自社で全てを実施する方法と、第三者の調査会社やオンラインサービスを利用して実施する方法の、大きく2パターンがありますが、違法性を排除し、スムーズに実行するためにも、ほとんどの作業を代行することが可能な第三者機関のサービスを利用するのがおすすめです。採用大手エン・ジャパンが運営するオンライン完結型サービスASHIATOには、以下のような、適法性や信頼性を担保する特長があります。・プライバシーマークを保有し外部機関による脆弱性診断を実施済み・候補者・推薦者双方の個人情報保護も当社が代行・関係者だけがレポートを閲覧可能にするなど、細かな権限管理が可能既に3000社
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