どこからがパワハラ? その定義とは
そもそも「パワハラ」とは何なのでしょうか? よく聞く言葉ですが、何がパワハラに該当するのか、定義が曖昧でよくわからない、と いう方もいるかもしれません。まずは基本的な定義やなぜ今パワハラ防止が重要視されているのかを見ていきましょう。
パワハラ防止が重要になっている背景
パワハラ防止がこれほどまでに注目されるようになった背景には、パワハラ行為に関する相談件数の増加があります。令和5年度に厚生労働省が公表した『職場のハラスメントに関する実態調査』では、過去3年間に各ハラスメントの相談があったと回答した企業の割合をみると、もっとも相談が多いテーマとしてパワーハラスメント(64.2%)が取り上げられています。
このような背景を受けて「パワハラ防止法」が成立するなど、社会のパワハラ防止への関心度はますます高まっています。
「パワハラ」の定義
厚生労働省によれば、パワハラは以下のように定義されてます。
“ 職場のパワーハラスメントとは、職場において行 われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。”
また、「職場のパワーハラスメントに当たりうる行為」として以下の6つの行為類型が紹介されています。
1:身体的な攻撃
例)上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする
2:精神的な攻撃
例)上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする
3:人間関係からの切り離し
例)自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
4:過大な要求
例)上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
5:過小な要求
例)上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な受付業務を行わせる
6:個の侵害
例)思想・信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視したり、他の従業員に接触しないよう働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする
ここで覚えておきたいのは、定義に挙げられている3つの要素を「全て」満たす場合がパワハラと定義されていることです。6類型に当てはまる行為であっても、この3つの要素を満たさない場合はパワハラに当たらない可能性があります。
被害者へ寄り添う姿勢も重要ですが、被害者の訴えのみに注目して業務上の適切な指導すらもパワハラと決めつけてしまうこともまたリスクです。3要素を正しく理解し、適切な判断が下せる組織体制が求められます。
パワハラ防止法のポイントとは?
パワハラの相談件数が増加するのに伴って成立したのがいわゆるパワハラ防止法です。パワハラ防止法は、正式名称を、労働施策の総合的な推進並びに労働者雇用の安定及び職業生活の充実に関する法律「改正労働施策総合推進法」と言いますが、改正に伴って企業にパワハラ防止が義務化されたことで一般に「パワハラ防止法」と呼ばれるようになりました。この改正の大きなポイントは、パワハラ防止が企業の義務とはじめて定められたことです。職場におけるパワハラ防止のために、「雇用管理上必要な措置を講じること」が企業に求められ、また、パワハラの相談をした社員に、それを理由に不利益を与えてはいけないこと、が明示されています。大企業では2020年6月から義務化され、中小企業でも2022年4月から適用されます。企業がこの法に反してパワハラ対策をしなくても法的罰則はありませんが、厚生労働大臣からの助言・勧告・指導の上、是正勧告に違わない場合には社名を公開される可能性があります。これはレピュテーションへの悪影響は非常に大きいでしょう。 (雇用管理上の措置等)
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、 当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要 な措置を講じなければならない。
事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際 に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。”
パワハラ社員を採用するリスクとは
このような社会の動きの中で、過去にパワハラをしていた人を採用し、同じようなことを自社でもされたら…と考えると、リスクは非常に大きいよ うに感じられます。具体的にはどのようなリスクがあるのか、見ていきましょう。
パワハラ防止法で定められる「企業の義務」が果たせない
先に紹介した通り、パワハラ防止は企業の義務です。もしパワハラを繰り返すような人を採用してしまった場合、義務が果たせない状態が継続してしまうことで、勧告を受けたり、社名を公開されるリスクがあります。
労働環境の悪化
パワハラをする人材から、既存社員へ悪影響が及ぶ可能性があります。パワハラのターゲットになった社員だけでなく、その周囲も含めてモチベーション低下や、離職に直結する問題になりかねません。
また、パワハラをする社員は、自分の上司や他部署には良い顔をするケースがあります。この場合、パワハラが組織課題として顕在化して解決にいたるまで時間がかかり、悪い組織状態が長期化することもありえます。
レピュテーションリスク
パワハラが常態化しているような企業では、評判の悪化は避けられないでしょう。業界内の繋がりや、口コミサイト等でネガティ ブな情報が広まってしまい、結果的に既存社員の離職や以後の採用が難しくなるなどの問題を引き起こします。
採用候補者のパワハラ歴はどうすれば発見できる?
過去にパワハラ問題を起こした人材の採用には慎重にならざるを得ませんが、採用選考の段階ではどうすればパワハラ歴を把握することができるのでしょうか?発覚する可能性があるとすれば、本人からの申告、あるいは候補者の知人伝い情報・噂などでしょう。ただし、採用に不利になる情報を隠す人が多いのはもちろんのこと、知人と接点がないケースもままあります。パワハラ行動が刑事事件にまで発展する重大性がなければ、一般的なメディアでその情報を検知することもまた難しいでしょう。そんな中で解決策として、採用候補者について客観的に事実確認ができる「リファレンスチェック」に注目が集まっています。 候補者のパワハラ歴検知にも寄与する「リファ レンスチェック」とは
リファレンスチェックとは、候補者の現職(あるいは前職)の同僚や上司など関係者にインタビューを行うことです。候補者の人柄や仕事ぶり、前職での問題行動の有無などについて、第三者からの客観的な情報を得ることができます。パワハラなど、本人からの申告が期待できない問題も検知できる可能性があります。
リファレンスチェックでパワハラが発覚したらどうすればいい?
もしリファレンスチェックでパワハラ問題が発覚した場合、その候補者に対してはどのように対処すべきでしょうか。
追加のリファレンスチェックを検討
もし1つの回答で「パワハラをしていた」などの情報があがった場合でも、慌てず丁寧に確認を進めましょう。社内で公式に事案として取り上げられていたか、懲戒など処罰の対象になっていたか、といった事実の詳細確認をする必要があります。
推薦者1人の偏った情報である可能性もゼロではないので、同時、あるいは追加でリファレンスチェックを複数人に行い、意見を比較して判断するこ とが推奨されます。
面談、面接での候補者への事実確認
本人に事実確認することも大切と言えるでしょう。本人に直接聞く場合は、できるだけ客観的な事実を語ってもらうことに加え、過去のパワハラ行動についてどう思っているか、今の考えを聞くことも重要でしょう。
意図して隠していたわけではないと確認でき、素直な反省や前向きな態度が見られて、むしろ今後同じ問題を起こす可能性が低いと判断できれば、その点を評価する選択肢もあります。
内定前であれば採用を見送る選択肢もある
内定前であれば採用を見送るかどうかは、企業が自由に選択できます。リスクになる可能性が高いのであれば見送る選択肢もあります。仮に内定後になってしまうと、取り消しするのは法的にハードルが高いため、リファレンスチェックは内定前に行うのがおすすめです。
内定取り消しについて、詳しくは以下のコラムをご覧ください。
リファレンスチェック導入をご検討なら『ASHIATO(アシアト)』