身辺調査といえば、婚約や結婚といったライフイベント前に行われるイメージが強いかもしれません。しかし、企業が採用活動を行う際に候補者を調査することも少なくありません。
採用活動時に身辺調査を実施する場合、どのような調査内容で、どこまでのことがわかるのでしょうか? 本コラムでは、企業が身辺調査(身元調査)を行う理由や法的リスク、実施する場合の調査方法、費用などを紹介します。
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身辺調査(身上・身元調査)とは?
身辺調査が行われるケース
なぜ企業では採用時に身辺調査を行うのでしょうか? 代表的な2つの理由をご説明します。 採用予定者について知っておきたい
採用予定者の経歴や仕事ぶり、実績、職場での人間関係などを事前に確認する目的で、企業が身辺調査を行うケースです。入社後にミスマッチが発生したり、期待するパフォーマンスが出せなかったりするリスクを抑えるために行われることがあります。
反社チェックをしたい
ビジネスパートナーや採用予定者などと契約や関係を開始するにあたり、反社会的勢力と関連がないか確認するケースです。特に企業は社会的な信用が重要なため、反社チェックを目的とした身辺調査を行う場合があります。
金銭関係の問題を解決したい
財産や債務の状況を調査するケースです。金銭的なトラブルが発生した際や、お金の貸し借りを行う際に身辺調査を行うことがあります。また、婚約時にお相手がギャンブルや浪費をする人かどうか事前に確認する目的で行われる場合もあります。
プライベートな問題を解決したい
婚約時に結婚相手の家族構成や素行、過去の結婚歴などを調査したり、浮気や不倫がないか調査したりするケースです。長く良好な関係を築いていくためにも、不安を取り除く目的で行われます。
ストーカーや嫌がらせを対策したい
自身の安全を確保する目的で調査するケースです。ストーカーや詐欺などは、知らぬ間に発生している場合があります。警察に相談したくても確証がない場合や、すでに被害を受けている場合に、誰がなぜそのようなことをするのか身辺調査で明らかにすることがあります。
身辺調査とリファレンスチェックの違い
身辺調査は、対象の人物に関する情報を幅広く調査・取得することが可能です。学歴や職歴、交友関係、家族構成、犯罪歴、反社チェック、金銭関係の状況など多岐にわたります。また、ストーカーや詐欺などのトラブルから身を守るために相手の情報を得る目的で行われる場合もあります。
対してリファレンスチェックは、前職での仕事に関する調査です。日々の仕事ぶりや社内外の人間関係、経歴、実績などの情報を取得できます。前職の関係者という第三者視点で、採用予定者の評価を確認できる調査です。
身辺調査は違法ではない? 企業にとっての法 的リスク
「身辺調査は違法なのではないか」と心配されている方も多いでしょう。基本的には、取得する情報が採用上必要な内容で、かつ候補者本人の同意があれば違法ではありません。ただし、情報の取得方法や調査内容が法律に抵触することや、合理的な理由がない内定取り消しで訴訟になることがあります。
具体的な調査内容の中にも法律に抵触する恐れのある項目があるため、身辺調査実施の際はどの項目をどんな方法で調べるのか、慎重に検討する必要があります。関係する法律について一部ご紹介します。
身辺調査は個人情報法保護法による制約がある
身辺調査を実施する場合は、個人情報保護法に抵触しないよう、採用候補者から事前に同意を得る必要があります。個人情報保護法では本人の同意を得なくてもよい4つのケースが記載されていますが、採用前の調査にはあてはまりません。
第二十三条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
引用元:『個人情報保護法 第二十三条』
調査前にしっかり本人の同意を得ましょう。また、不当な差別や偏見などの不利益が生じないように配慮すべき「要配慮個人情報」の取り扱いについてはさらに注意が必要です。
この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。
引用元:『個人情報保護法 第二条』
適性や能力に関係ない事項の把握による就職差別
また身辺調査に限らず、企業が行う採用選考の配慮すべき事項が厚生労働省から示されています。
<a.本人に責任のない事項の把握>
・本籍・出生地に関すること (注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)
・家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
・生活環境・家庭環境などに関すること
<b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握>
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条に関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
引用元:『厚生労働省 公正な採用選考の基本 (3)採用選考時に配慮すべき事項』
以上のような内容を調べることは、就職差別につながる恐れがあります。本人に責任のない事項や、本来自由であるべき事項は調査しないようにしましょう。
身辺調査後の内定取り消しによる解雇権の濫用
内定後に身辺調査を行う場合、内定を取り消すためには「合理的な理由」が必要です。
(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:『労働契約法 第十六条』
「解雇権の濫用」として裁判になる事例もありますので、取り消しの際は慎重に検討しましょう。身辺調査を実施したい場合は、内定よりも前の段階で行うことが推奨されます。
企業が採用時に身辺調査を行う理由
企業はなぜ採用時に身辺調査を行うのでしょうか。代表的な理由を2つ紹介します。
客観的に信頼性を確認するため
採用後のトラブルを予防するため
過去に問題を起こしていたり、自社の信用を損なうような不正に加担していたりする人材は、採用後にトラブルを招く可能性があります。また、業界が変われば商習慣も異なる場合があるため、問題行動ではなくとも自社の仕事の進め方と親和性があるかどうか確認することも大切です。
そのため前職でのトラブルや過去の犯罪歴を採用前に確認することで、企業風土や業務への適性が低い採用を減らし、入社後に発生し得るトラブルを未然に回避する目的で身辺調査が行われるといえます。
また、訴訟大国アメリカでは「ネグリジェント・ハイヤリング(怠惰雇用・過失採用)」という考えがあり、社員が起こした事故や事件の責任を、採用前の身辺調査を怠ったという理由で、企業が追求されることがあります。
日本でも雇用主に責任を追及する風潮が年々高まっており、レピュテーションリスクの観点からも、社員が引き起こす事件を警戒する企業が増え、採用時の客観的な調査への注目度が高まっています。
▼「前職でのトラブル」についてのより詳しい記事はこちらリファレンスチェックでパワハラ歴は発見できる? 発覚した際の対処も解説採用時の身辺調査の内容
身辺調査を実施するにあたり、他社ではどこまで調査しているのか気になる採用担当者の方は多いと思います。目的別の調査内容について説明します。
経歴や職歴
確認項目は、学歴、専攻分野、保有資格、在籍企業、在籍期間、雇用形態、職務内容、退職理由などです。採用予定者に卒業証明書や源泉徴収票などを提出してもらい、履歴書に記載された経歴と相違がないか確認します。加えて、前職の企業に当時の勤務態度や実績、退職理由なども確認します。
反社チェック
メディアの情報や反社チェックサービスの独自データベースなどで調 べ、反社会的勢力との関わりの有無を確認します。近年は暴力団だけでなく、半グレ集団や詐欺集団、それらの集団に属する個人との関係まで確認するケースも増えているようです。
犯罪・民事訴訟歴、破産履歴
企業のイメージや信用を毀損する経歴がないか明らかにする目的で以下の情報を確認します。
・登記情報
一般公開されている登記簿を法務局で住所から確認し、不動産の所有状況や差し押さえの有無を調べます。
・犯罪歴、軽犯罪歴
日本では犯罪歴は非公開です。そのため、新聞などのメディアやインターネット、SNSなどをもとに調べます。
・民事訴訟歴
最高裁判所の判決記録や、新聞などのメディア情報、調査会社独自のデータベースをもとに調べます。
・破産履歴
自己破産の情報が官報に載っていないか調べます。
インターネット・SNS調査、近隣調査
インターネットやSNSを利用して採用予定者の情報を調査します。検索エンジンでは対象者の氏名や関連するキーワードを入力し、報道や公式発表、ブログ記事などから情報を集めます。SNSも同様に、投稿内容やプロフィールから日常生活や人間関係、価値観などの情報を集めることが可能です。
また、本人の自宅近辺で居住の実態や普段の生活状況について聞き込み調査をするケースもあります。
採用時に身辺調査を行う場合のポイント
身辺調査を行う場合、どのような点に着目して準備すればいい のでしょうか。ポイントを3つ紹介します。
身辺調査を行うタイミング
選考のどの段階で身辺調査を実施するか事前に決めておくことが大切です。採用予定者が在職中の場合、身辺調査のタイミングが早すぎると退職時にトラブルの原因となるかもしれません。また内定通知後に実施し、結果が思わしくなかった場合は内定を取り消すことになるでしょう。
身辺調査を行ったことや内定を取り消したことで企業のイメージが低下したり、人材紹介などエージェントとの信頼関係が悪化したりするリスクは避ける必要があります。そのため、オファー面談や最終面接の前に身辺調査を行うのが主流となっています。
調査項目の設計
身辺調査の目的によって、調査項目は変わります。経歴や学歴などの事実確認が主な目的の場合は、確認したい情報を一問一答形式で用意することで期待通りの情報を得られるでしょう。
一方で、自社の風土や組織の雰囲気との相性や将来的に想定されるリスクなどを見極めたい場合は、どういった回答を得られれば判断しやすいか事前に検討する必要があります。例えば、業務上で相性の良かった人と良くなかった人は、回答例を添えることで意図した情報を得やすくなるでしょう。
▼「リファレンスチェック」についてのより詳しい記事はこちら
リファレンスチェックとは?質問内容やメリット、やり方など、気になるポイントを解説!調査結果の活用
身辺調査の結果は選考だけでなく、入社後のオンボーディングやマネジメントでも活用できます。例えば、成果を出せた背景や相性の良いマネジメントスタイルについて情報を得られれば、入社後の早期活躍を見込した配属やオンボーディングを実施できるでしょう。また、受け入れ側も採用予定者の人柄などを事前に知ることで、歓迎や研修、コミュニケーションの取り方などを準備することが可能です。
身辺調査の方法と費用
身辺調査・身元調査は自社で行うことも可能ですが、インターネットなどでわかる公開情報には限りがあります。また関係する法律が多く、違法にならないよう慎重に調査するためには専門知識が必要です。具体的な方法を紹介します。
企業が自ら調査する
インターネットやSNSを通じて企業の担当者が直接調査する方法です。基本的に費用は発生しないうえ、インターネットやSNSでの調査は手軽にできることから、取り入れている企業も増えています。しかし、氏名で採用予定者のアカウントを特定できず、情報を得られないことも少なくありません。確実に情報を得たい場合は、費用はかかるものの外部に依頼したり専用のサービスを利用したりすることをおすすめします。
探偵・調査会社に依頼する
探偵や興信所といった個人調査の専門家に依頼する選択肢があります。探偵の調査は、『探偵業法』で規定された範囲内で行われるため、調査可能な範囲においてその内容を綿密にすり合わせる必要があります。
探偵事務所や調査を専門とする会社は、多岐に渡る身辺調査が可能なことが多く、リスクを考慮して調査要件を設計する難易度はある程度高いといえます。
探偵や調査会社に身辺調査を依頼する場合の費用は、調査に要する人員と時間に応じて料金が決まる時間料金制で1時間につき5千円から2万円、求める調査結果が得られたら一括で支払う成果報酬制で25〜100万円程度がおおよその目安です。しかし、会社や地域、調査内容によって料金は大きく異なり、不明瞭な料金体系のこともあるので、複数社の見積をとって比較検討することをおすすめします。
リファレンスチェックサービスを利用する
身辺調査サービスを選ぶポイント
身辺調査・身元調査に利用するサービスを選ぶ際は、調査したい内容と予算を吟味したうえで、サービスの内容や費用、信頼度を踏まえて選びましょう。
身辺調査の調査項目は多岐に渡りますが、すべての採用予定者に詳細な調査が必要な訳ではありません。コストパフォーマンスを考慮し、自社が採用選考で重視したい、確認しておきたい項目に絞って調査を行うことをおすすめします。
例えば、役員など重要なポストに就く予定の候補者の身辺調査は、調査会社に依頼して念入りに行い、一般社員の採用選考では比較的安価なリファレンスチェックサービスを利用する、という使い分けで予算内でより多くの候補者の身元調査を可能にする、という方法もあります。
具体的な観点は以下の4つです。
対応している調査範囲
希望する調査項目をカバーしているサービスかどうか確認しましょう。調査項目は学歴、専攻分野、保有資格、在籍企業、在籍期間、雇用形態、職務内容、退職理由、反社チェック、登記情報、犯罪歴、軽犯罪歴、民事訴訟歴、破産履歴などがあります。
調査に必要な期間
身辺調査にかかる期間はサービスによって異なります。企業が身辺調査を依頼し、実際に調査・報告までの期間は早くても3営業日ほど必要です。調査範囲にもよりますが、1週間を目安に考えておくといいでしょう。
調査の安全性
身辺調査はプライバシーに関わるため、安全性は非常に重要です。利用するサービスがコンプライアンスを遵守しているか、違法性のある調査方法を取っていないかなどの確認は欠かせません。依頼する企業にも個人情報保護法に関する責任があるため、安全に調査してくれるサービスか事前にしっかりと確認してください。
調査にかかる費用
調査対象や調査の方法、提供しているサービスなどによって身辺調査にかかる費用はさまざまです。リファレンスチェックサービスであれば1人あたり数千円〜10万円、調査会社であれば1人あたり5,000円〜100万円と幅があります。求める情報を得るのに最適なサービスを選ぶことで、余計な費用を支払わずに済みます。
身辺調査としてリファレンスチェックサービス『ASHIATO(アシアト)』という選択肢
多くの採用候補者に対して利用できる比較的安価な身辺調査・身元調査方法の1つとして「リファレンスチェックサービス」が注目されています。
「リファレンスチェック」とは、採用候補者の許可を得て「候補者の現職(前職)の関係者である上司・同僚・部下などに本人の仕事ぶりや経歴・実績、人柄などを問い合わせること」をいいます。以前は海外や外資系企業で実施されるイメージが強かったリファレンスチェックですが、本来一緒に働いてみないとわからない客観的な人柄・働きぶり・活躍しやすい環境などの情報を候補者と近しい第三者からのレポートで確認できるため、近年オンライン面接が増えたことも後押しとなり日本での認知度が高まっています。リファレンスチェックを自社の採用選考に導入する場合、比較的始めやすいオンライン完結型の「リファレンスチェックサービス」がおすすめです。バックグラウンドチェックも併用して実施できます。2020年10月のリリース以降、すでに導入企業が3,000社を突破しているエン・ジャパンのリファレンスチェックサービス「ASHIATO」には、以下のような特徴があります。・オンライン完結型で負担が小さく、スピーディに候補者のレポートを取得可能・採用時の見極めのみならず、入社後の配属やオンボーディングにも寄与できる情報が取得可能・採用候補者のメリットも提示できるため、調査実施の許可を取りやすい・月額料金制(使い放題)・希望人数分のチケット制など複数の利用プランを完備・法的なリスクを考慮したサービス設計・業種・職種を問わずご利用可能15万社の採用支援、10万件以上の適性テストを行ってきたエン・ジャパンのノウハウが凝縮した「ASHIATO」。ぜひお気軽にお問い合わせください。▼エン・ジャパンのバックグラウンドチェック(身辺調査)サービスはこちらバックグラウンドチェック | ASHIATO(アシアト) by エン・ジャパン採用後トラブルを防ぐ!バックグラウンドチェックとは?【見逃し配信】経営者・人事労務担当者が知っておくべき 社員トラブル防止策