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グループでの対立、個人的悩み…職場での「敵対感情」はどう解消すればいい?

コラム公開日
突然ではありますが、職場を構成しているのはみんな人間です。
人間であれば、仕事だけでなく他の時間にも怒りやストレスを感じたり、それが長引いたりするのは当たり前のことです。

しかし、あからさまに機嫌の悪い上司がオフィスにいると職場の空気は悪くなってしまいますし、一方で何が起きても表情に変化がなさすぎると「あの人は何を考えているのかわからない」と思われてしまいます。

様々な感情表現を職場でうまくコントロールするには、どうしたら良いのでしょうか。


幸福を装うか、辛さを表に出すか

人はさまざまな場面でストレスを感じますし、困ったり落ち込んだりもします。
それは仕事だけでなく、私生活でもしばしば起きることです。

では、私生活で辛い状況にあることを職場では隠すべきか、正直に辛さを見せてしまうべきなのか。悩ましいところです。

このような問いに、ハーバード・ビジネス・レビューでは以下のような研究結果が紹介されています*1

まず、チームでの仕事を想定した実験では、被験者はマネージャー役を演じます。そして、架空の調査に対する従業員の回答を見てどの従業員に仕事を割り振るか決めるというものです。

なお、この架空の調査の質問では、各メンバーが悲しみや苦しみをほかの人と共有するタイプの人かそうでないかが分かる内容になっています。

その結果はこのようなものでした。
参加者は、前向きな回答をした従業員に仕事を与える可能性がはるかに高かった。
この結果は追加実験で再確認され、幸せを装うことができるのは、その人が有能であるからだと見なされるのが主な理由であることがわかった。それは、レジリエンス(再起力)と仕事上の目標へのコミットメントを示すものだというわけである。

<引用:「職場では感情を隠すべきか」ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年2月号 p10>

一方、これが同僚の付き合いとなると事情は異なるようです。
参加者に対し、同僚が職場や飲み会でつらい状況にあることを打ち明ける人か辛さを隠す人かについてたずねた結果は以下のようなものです。
職場でつらい状況にあることを打ち明ける同僚、あるいは外に出さないことを選ぶ同僚にどう対応するかを尋ねた。後者の場合、幸福なふりをすることは、信頼を高めたり、有能さを示したりすることにはならず、単に不誠実の証と見なされた。

<引用:「職場では感情を隠すべきか」ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年2月号 p10>

これらから導き出された結果として、研究者らはこうまとめています。
「個人個人が共通の仕事を発展させるという目標がある仕事の場では、幸せであることを示すとプラスに働く可能性がある。個人個人が親密になって結び付くことを目標とするプライベートな環境で、見せかけの幸福を演じると、信頼は築かれそうにない」

<引用:「職場では感情を隠すべきか」ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年2月号 p10>

感情の取り扱いについてもTPOがあるということです。


リーダーに求められる「対立の取り扱い」

また、リーダーの場合、グループ内で起こる「対立」にしばしば出会います。
ここにも当事者同士の「感情」が関係しています。

国連で調停役の経験を持つメディエーターズ財団のマーク・ガーゾン氏は「対立」には2つの種類があると述べています*2

ひとつは「熱い対立」、もうひとつは「冷たい対立」で、それぞれの特徴は以下です。
まず、「熱い対立」とはこのようなものです。

・声高に話したり叫んだりする。
・身体的に攻撃的であり、荒っぽく、身の危険を感じさせるような行動を取る。
・扇動的な言葉を使う。
・我慢がならない、爆発するかもしれないとアピールする。

そして、「冷たい対立」の特徴はこのようなものです。

・小声でぶつぶつと不平を言ったり、口をとがらせたりする。
・身体的には自制が利いているように見えあまり身動きをしない。
・接触を避けたり、かわしたりする。
・黙っているか、受動的攻撃性のある(表立ってではなく、しかしわざと意に沿わないような)話し方をする。
・心を閉ざしているか、冷淡になっているように見える。

この2種類の対立について、ガーゾン氏はこのように述べています。
どちらのタイプの対立も解決には向かわない。意見は戦わせるが、強い敵対心を抱いていないくらいの「温かい対立」のほうが、はるかに生産的になる可能性が高い。

<引用:「対立の『温度』をうまく調整するには」ハーバード・ビジネス・レビュー 2022年3月号 p88>

日本では「熱い対立」のようなシチュエーションはあまり見られません。「冷たい対立」の方が多いことでしょう。しかし日本ではこちらの方が厄介かもしれません。

ガーゾン氏は興味深い指摘をしています。「冷たい対立は温めなければならない」というものです。また、慎重に扱う必要もあると論じています。

「冷たい対立」にこそ大きな感情が潜んでいる

ガーゾン氏が「冷たい対立」について指摘するのは、「対立が冷たいのは、大きな感情の抑制があるからこそ、という場合も多い」ということです。

よってこれが一気に爆発して制御不能にならないように、「適度な温め方」が必要だというのです。
では、どのように温めるのか。

ガーゾン氏はこのような手法を提案しています。
そのためには、ディベートと対話をするとよい。グループが困難な問題に取り組むのを避けている場合、分かれて違いを論じ合うディベートの形式としてみる。2チーム(必要があれば、さらに多くのチーム)に分け、実際にディベートを行う。これにより差異が際立ち、表面化していなかった対立を集団が認識できるようになる。

<引用:「対立の『温度』をうまく調整するには」ハーバード・ビジネス・レビュー 2022年3月号 p90>

もちろん、対立している相手同士を違うチームに入れるという工夫もできるでしょう。

なお、「熱い対立」については、会合の際に発言の厳格な制限時間(たとえば1人3分)を設け、全員が輪になって座るようにするような場を設けるのが良いとしています。


コミュニケーションの黄金律・白金律

さて、コミュニケーションには「黄金律」と「白金律」があるといいます。

黄金律(ゴールデン・ルール)とは「自分がしてほしいことを、まず相手にしてあげる」というものです。それを発展させたものが「相手がしてもらいたいことを、相手にしてあげる」という白金律(プラチナ・ルール)です。

プラチナ・ルールにいきなり到達することは難しいかもしれません。

しかし、自分自身も「感情」を持つ人間として相手を観察することによって、相手がどのようなタイプの人であるか見えてくることでしょう。

人が日常的に取る行動や態度には、なにかしら感情が込められているはずです。こうした感情を普段意識することはあまりないでしょうが、まず、時に自分の行動や態度にどんな感情が含まれていたか見直してみましょう。自分を客観視することは、自身のストレス軽減にも役立ちます。




*1
ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年2月号 p10

*2
ハーバード・ビジネス・レビュー 2022年3月号 p88-90
清水 沙矢香

この記事を書いた人

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道局で社会部記者、経済部記者、CSニュース番組のプロデューサーなどを務める。ライターに転向後は、取材経験や各種統計の分析を元に幅広い視座からのオピニオンを関連企業に寄稿。 趣味はサックス演奏。自らのユニットを率いてライブ活動を行う。