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企業が取り組むSTEAM教育の意義と事例

コラム公開日
現在はAIやIoTなどの急速な技術進展によって社会が激しく変化し、多様な課題が生じています。
こうした時代の流れを受けて、教育の在り方も見直されています。
それは、文系・理系といった枠にとらわれず、様々な情報を活用しながらそれらを統合するような方向性です。
その目的は、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結び付けていく資質・能力を育成すること。それが、STEAM教育です。
 
産業界の人材育成としても大変有益なため、国は国際的競争力を高めるためにSTEAM教育を重視していますが、産業界での認知はまだ十分とはいえません。
 
本記事では、STEAM教育の概要と産業界にとっての意義、企業による取り組み事例をご紹介し、企業のこれからの人材育成の在り方を探ります。
 
 

STEAM教育とは


 

「STEM+A」

STEAM教育とは、STEM教育に“A“を加えたものです。
まず、STEAM教育の根幹をなすSTEM教育からみていきましょう。
 
STEM教育は理数系領域(Science, Technolgy, Engineering, Mathematics)を融合することで生徒の学びを活性化させ、実社会に応用できる知識や技能の習得を目指す教育アプローチです。
日本の小学校で2020年から必修になったプログラミング教育もその活動の1つ。*1、*2:p.7
 
STEM教育の起源は1990年代のアメリカです。国際競争力を強化するために、科学技術人材の育成を目的として始まった教育政策で、シリコンバレーにはアメリカの「STEM人材」の30%が集まっています。*1、*2:p.6 
 
STEAM教育とはこのSTEMに“A“”を加えたものです(図1)。*3:p.8
 

図1 STEAMのコンセプト
出典:内閣府(2020)「STEAM: 21世紀の教育と人材育成」p.14
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/20201023/shiryou2.pdf
 
かつて、スティーブ・ジョブズは、「テクノロジーはリベラルアーツと融合してはじめて、人の心を謳わせることができる」と述べました。*2:p.13
 
文部科学省は、その“A”を、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理などを含めた広い範囲で定義し推進していくことが重要だと述べています。*3:p.10
それは、文系・理系といった枠にとらわれず、各教科等の学びを基盤としつつ、様々な情報を活用しながらそれらを統合するという方向性です。
 

学びの中心は「ワクワク感

STEAM教育をより具体的にみていきましょう。
「学びのSTEAM化」とは、文理を問わず、「知ること」と「創ること」が循環する学びです。*4:p.7
 
まず、教科知識や専門知識を習得して知識を得ます。次に探究・プロジェクト型学習 (PBL) の中で知識に横串を刺し、創造的・論理的に思考し、未知の課題やその解決策を見出すのです(図2)。
 

図2   「学びのSTEAM化」のイメージ
出典:経済産業省(2020)「『未来の教室』とEdTech研究会 STEAM検討ワーキンググループ 中間報告」p.7
https://www.learning-innovation.go.jp/existing/doc202008/steam2020-midreport.pdf 
 
「知る」と「創る」の中心にあるのが「ワクワク感(Playfulness)」。学ぶ歓びを呼び覚まし、「ワクワク」を軸とした学びを深めていくのがSTEAMなのです。
 

日本のSTEAM教育

では、日本ではSTEAM教育がどの程度、浸透しているのでしょうか。
 

図3 大学でSTEM分野を専攻する学生の入学者に占める割合、女性比率の国際比較
出典:内閣府(2020)「STEAM: 21世紀の教育と人材育成」p.17
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/20201023/shiryou2.pdf
 
図3をみると、大学でSTEAM分野を専攻する学生が新入生全体に占める割合、女性比率ともに、日本は国際的にみて低い割合を示し、OECD加盟国の平均を下回っています。
早急にジェンダ・ギャップを含めた教育の在り方を見直す必要がありそうです。
 
 

経済産業省による「STEAM ライブラリー」


 

STEAM ライブラリー」とは

経済産業省はSTEAM教育やEdTechを推進するために、「未来の教室」という取り組みを行っていますが、その一環として「STEAM ライブラリー」を公開しています。*5-1
その目的は、「生徒が一方的に学習をするだけでなく、教師や研究者、企業人も交わる双方向的な学習の場」とすることです(図4)。


図4 STEAMライブラリーのイメージ図
出典:経済産業省「STEAM LIBRARY>STEAMライブラリーとは」
https://www.steam-library.go.jp/about
 
ここでは多くの企業や大学などが、多様なテーマでSTEAMの各分野を融合させたものづくりや科学的研究、社会的課題の解決法などについて紹介しています。
 

STEAMライブラリーのコンテンツ

STEAMライブラリーにはさまざまな分野のコンテンツが掲載されています(図5)。*5-2
 
 
図5 STEAMライブラリーのコンテンツ例
出典:経済産業省「新しい学びのプラットフォームSTEAMライブラリー Ver. 1」
https://www.steam-library.go.jp/
 
図5は豊富なコンテンツのほんの一部ですが、それぞれのコンテンツ毎に、概要と学習目標が示されています。また、指導ガイド、動画・ワークシート・参考資料などが提供されていて、それらは単体で取り扱うことも、資料集代わりに使うことも可能です。
 
STEAM教育がどのようなものか理解するために、図5のうち、ブリタニカ・ジャパン株式会社による「アリの集団(コロニー)【日本語版】/働かないアリの働きとは?」を例にとってみましょう。*5-3
 
このコンテンツの学習目標は次のように示されています。

・アリをはじめとする社会的な生き物の行動について記述する。
・1つの集団(コロニー)の中に、役割の異なるアリがいるのはなぜか説明する。
・人間の社会とアリの集団(コロニー)の違い、類似点を記述する。
・アリの行動から人が学べることがあるかどうか検討する。
・働かないアリが果たしている役割と、「生産的ではない」と思われがちな人々との共通点を検討する。

以上のような活動を通じて、教科や学問分野の枠を超えて連想する力を身につけ、道徳や哲学、倫理にも結びつける。さらに、実験、データ、シミュレーションをもとに仮説を立てる力もつけようとする学習です。
 
このコンテンツは6つの動画レッスンで構成されていますが(図6)、どのレッスンも日本語と英語の二言語で提供されています。
 

図6 経済産業省「STEAMライブラリー Ver. 1:「アリの集団(コロニー)【日本語版】/働かないアリの働きとは?」
出典:経済産業省「新しい学びのプラットフォームSTEAMライブラリー Ver. 1:アリの集団(コロニー) 【日本語版】/ 働かないアリの働きとは?」
https://www.steam-library.go.jp/content/57
 
 

産業界にとってのSTEAM

 

人材教育としてのSTEAM

産業競争力懇談会(COCN)という組織があります。構成員は産業界の有志。目的は「日本の産業競争力強化のために、科学技術・イノベーション政策や官民の役割分担などを政治提言としてとりまとめ、その実現を図る」ことです。*6-1
 
そのCOCNがとりまとめた「社会で育てる STEAM 教育のプラットホーム構築」では、産業界の立場から STEAM を以下のように評価しています。*6-2:p.11
  1. 社会人になって解くべき課題の多くは、多面的な要素の組み合わせであり、俯瞰的なものの見方や複数の要素の掛け合わせを習熟できる。イノベーションを起こす力となる。
  2. テーマを要素に分解し、そして解決策をまとめる過程で、データ処理やITを駆使する素養を蓄積することが期待される。
  3. 雇用関係をジョブ型に転換する傾向が出ているところ、ジョブ型雇用とSTEAM教育は、親和性がある。
  4. 今後、ますます、不透明、不確実な事業環境における事業運営は、STEAMな問いにあふれており、正しい道筋への原動力となる。また、企業活動にとっても重要な持続的な社会の構築(SDGs)への難しい挑戦への解決策に導いてくれることが期待される。
  5. 今後の企業運営において、生き残り、世の中から評価される新たな価値創造の原動力は人材であり、STEAM教育を受けた人材の確保、ならびに企業内においても STEAM教育などのリカレント教育、生涯教育などに積極的な企業が、学生や様々なステークホルダーから選ばれるエクサレントカンパニーとなる。

以上のことから、STEAM教育は、企業の人材育成、人材マネジメントの中核をなすべきものといえます。
 
企業や産業団体には相当数の教育プログラムがありますが、俯瞰的に物事を捉える人材育成やイノベーションの創生をめざすSTEAM教育を明確に意図した活動はまだ少ないと言われています。*6-2:p.18、pp.25-26
 
また、そもそも産業界での認知度は高いとはいえません。
新しい時代環境に合わせるために、STEAMを基盤とした企業内人材へのリカレント教育や人材マネジメントが必要なのです。

 

企業の積極的な参画

企業内人材育成だけでなく、学校教育としてのSTEAM教育においても、産業界の積極的な参画が求められています。*6-2:p.29
 
先ほどみた、経済産業省のSTEAMライブラリーにはさまざまな企業がコンテンツを提供していますが、それはこうした取り組みの1つです。
 
また、それ以外にもさまざまな企業がそれぞれの企業の強みを生かした教育活動を行っています。*6-2:pp.30-38
 
例えば、公益財団法人日立財団は「 理工系女子応援プロジェクト」を展開しています。*7-1、*7-2
前述のとおり、日本では理系分野で学ぶ女子学生が少ないという課題がありますが、このプロジェクトは、そうした状況の改善を目指し、女子中高生の理工系進学へのモチベーションを喚起させるための啓発事業です。
 
プロジェクトサイト「わたしのあした」では、理工系出身のさまざまな分野のトップランナー、技術者・研究者として第一線で活躍している女性へのインタビューを紹介するとともに、体験型イベントを開催しています。
 
 

おわりに

STEAM教育は子どもたちに有益な学びを提供しますが、それは、将来、企業で活躍する優秀な人材を育成するという側面をもちます。また、企業内のリカレント教育としても優れた取り組みです。
 
STEAM教育は現在、世界の潮流ですが、日本はそれを追いかける立場です。
企業はその意義を理解し、当事者意識をもってSTEAM教育に積極的に取り組むことが必要ではないでしょうか。
 
資料一覧
*1
日本STEM学会「STEM学会とは」
https://www.j-stem.jp/about/
 
*2
内閣府(2020)「STEAM: 21世紀の教育と人材育成」(「選択する未来2.0」有識者懇談会
2020年10月23日講演資料)
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/20201023/shiryou2.pdf
 
*3
文部科学省「STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進」
 
*4
経済産業省(2020)「『未来の教室』とEdTech研究会 STEAM検討ワーキンググループ 中間報告」
https://www.learning-innovation.go.jp/existing/doc202008/steam2020-midreport.pdf
 
*5-1
経済産業省「STEAM LIBRARY>STEAMライブラリーとは」
https://www.steam-library.go.jp/about
*5-2
経済産業省「新しい学びのプラットフォームSTEAMライブラリー Ver. 1」
https://www.steam-library.go.jp/
*5-3
経済産業省「新しい学びのプラットフォームSTEAMライブラリー Ver. 1:アリの集団(コロニー) 【日本語版】/ 働かないアリの働きとは?」
https://www.steam-library.go.jp/content/57
 
*6-1
産業競争力懇談会HP
http://www.cocn.jp/
*6-2
産業競争力懇談会(2020)「社会で育てるSTEAM教育のプラットホーム構築」
http://www.cocn.jp/report/e2fb649fab34fb7a7a08b3b487680086dee8f50b.pdf
 
*7-1
公益財団法人日立財団「理工系女子応援プロジェクト特別サイト『わたしのあした』」
https://www.hitachi-zaidan.org/activities/girls/index.html
*7-2
公益財団法人日立財団「わたしのあした」
https://www.hitachi-zaidan.org/my-tomorrow/index.html
横内 美保子

この記事を書いた人

横内 美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。留学生の日本語教育、日本語教師育成、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティア教室のサポートなどに携わる。パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。<br> twitter:<a href="https://twitter.com/mibogon">https://twitter.com/mibogon</a><br> Facebook:<a href="https://www.facebook.com/mihoko.yokouchi1">https://www.facebook.com/mihoko.yokouchi1</a><br>Instgram(mihokoyokouchi):<a href="https://www.instagram.com/?hl=ja">https://www.instagram.com/?hl=ja</a><br>