1. リファレンスチェックのASHIATO
  2. お役立ち情報
  3. 「ダメな心理的安全性」で組織が弱体化するリスク—思わぬ落とし穴に注意

「ダメな心理的安全性」で組織が弱体化するリスク—思わぬ落とし穴に注意

コラム公開日
「心理的安全性って、今の日本に絶対必要ですよね!」

若手の人事担当者が声を弾ませたとき、「おや?」と思いました。彼女は人間関係の摩擦を嫌い、和を重んじるタイプだからです。

話を聞いていくと、
「心理的安全性のある職場=安心して働けるハラスメントのない職場」
と捉えていることがわかりました。

もっといえば、“ストレスフリーで皆が仲良く、和気あいあいとした居心地のよさ”をイメージしているようなのです。

実は、この解釈には落とし穴があります。本来の意味とは離れており、組織弱体化の一因となるリスクがあるためです。

心理的安全性のよくある勘違い


冒頭の人事担当者と同様に、心理的安全性を勘違いしている方は多いかもしれません。

チームの心理的安全性を提唱したエイミー・エドモンドソン教授は、こう述べています。
心理的安全は、メンバーがおのずと仲良くなるような居心地のよい状況を意味するものではない。
プレッシャーや問題がないことを示唆するものでもない。

「心理的安全性」の字面から思い浮かぶ意味とは、少々異なる点に注意が必要なのです。

心理的安全性とは何か?


では、心理的安全性とは何かといえば、

「率直に発言したり懸念や疑問やアイデアを話したりすることによる対人関係のリスクを、人々が安心して取れる環境のこと」*2

「支援を求めたりミスを認めたりして対人関係のリスクを取っても、公式、非公式を問わず制裁を受けるような結果にならないと信じられること」*3

……となります。

言い換えれば、
「私の意見は違います」
「失敗しました」
「助けてください」
と言うリスクを取れる職場が、心理的安全性の高い職場なのです。

間違った心理的安全性で組織が弱体化する2つの理由


心理的安全性の本義を理解せず、表面的に解釈すれば、逆に組織を弱くしてしまいます。理由は、2つ挙げられます。

1つめの理由は、プレッシャーやチャレンジのない「ぬるま湯」状態になり、社員が楽なほうへと流されていくからです。

米国企業を中心に心理的安全性の概念が広まった背景には、「厳しいリスクを取れるように」という思惑があります。“リスクを取らない楽な職場づくり”とは正反対です。

2つめの理由は、チームの結束力が強くなり、集団思考が意思決定を誤らせるからです。“結束性の害”はあまり知られていないところかもしれません。

エドモンドソン教授は、以下のとおり指摘しています。
研究によって明らかになっているとおり、チームの結束性は、異論を唱えることに対する積極性を弱めてしまう可能性がある。
 
この問題に言及しているのが「集団思考」という言葉だ。具体的に言うと、結束している多くのグループでは、重要な問題についてどうやらみんなの意見が一致しているらしくそのために生まれている調和を乱したくないと人々は思うのだ。
 
これによって人々は意見を言わなくなったり違う観点を持っていることを認めなくなったりするようになり、ひいてはまずい意思決定をしてしまう一因になる。

経営トップやマネジャーは“原典”で本義の確認を


ここまで、あえてエドモントン教授の言葉を引用しながら筆を進めてきました。

自社の心理的安全性を高めたい経営トップ・マネジャーの方は、ぜひ原典で本義を確認することをおすすめします。

心理的安全性をマネジメントに活用しているGoogleなどの企業内の解釈や、それらを解説している文献を介すれば、どうしても誤解が起きやすいためです。本記事も、例外ではありません。

心理的安全性は、信頼やエンゲージメントとも異なるユニークな“概念”で、奥が深いのです。まずは研究者の書籍から入ると、理解しやすくなります。

エドモンドソン教授の最新刊(※)『恐れのない組織「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』では、概念から実戦ポイントまでわかりやすく解説されています。

※本記事執筆時点

心理的安全性ある職場で働くことはタフな体験だった


筆者自身は、心理的安全性の概念に触れたとき、
「なるほど、そういうことだったのか」
と答え合わせできた気持ちになりました。

心理的安全性が(異様に)高い会社で働いていたことがあったためです。体験談を少しお話しましょう。

怖いもの知らずのチーム


当時、心理的安全性という言葉は知られていませんでしたが、その会社は自然発生的に高い心理的安全性を備えていました。

理由として、以下が挙げられます。
  • 会社もメンバーも若く失うものがなかった
  • 組織がフラットでほとんど序列がなかった
  • 米国企業の出身者や外国籍のメンバーが多く日本企業のカルチャーが薄かった
  • 会社として実現したいビジョンにメンバーが夢中だった(そのためにリスクを取るのはお安いご用、という雰囲気)

一言でいうと「怖いもの知らず集団」だったのです。

エドモンドソン教授の最新刊タイトルは『恐れのない組織』ですが、まさにそれを地で行っていました。

職務遂行に必要なアクションへ躊躇がない


怖いもの知らずのチームは、職務遂行に必要なアクションへ躊躇がありません。

「ミスを報告したら上司の機嫌が悪くなる」
「同僚の間違いを指摘したら気まずくなる」
「チャレンジに失敗したら立場がなくなる」
「わからないことを聞いたら怒られる」

こういった“対人関係のリスクへの恐れ”に邪魔されることなく、職務遂行へ一直線です。

会議となれば、メンバー全員が活発に発言していました。“建設的な議論”といえば聞こえはよいですが、ヒートアップすることも多々。

たまたま訪れた取引先の担当者は「ケンカしている」と慌てたそうです。私たちにとっては日常茶飯事で、ケロッとしたものでした。

ラーニング・イノベーション・グロース


『恐れのない組織』のサブタイトルに『Learning,Innovation,and Growth(ラーニング・イノベーション・グロース:学習・革新・成長)』とあります。本当にそのとおりでした。

毎日が学びの宝庫であり、イノベーションが生まれ、急成長を遂げました。“心理的安全性”の視点から見れば、納得感があります。

なぜなら、心理的安全性の低い会社の社員たちが、
「これを言うと面倒だから、黙っておこう」
と沈黙している傍ら、こちらはメンバー全員がピーチクパーチクしゃべりまくり、どんどん学んでガツガツ行動するのですから。

進化し続ける組織にとって、心理的安全性は貴重な源泉である。振り返れば、そう実感します。

さいごに


本記事では、心理的安全性のよくある勘違いと、筆者が心理的安全性の高い職場で体験したことをご紹介しました。

“怖いもの知らずチーム”での体験は、決して楽なものではありませんでした。非常にエネルギーを要する、タフな日々だったといえます。

ですが、楽しかったのです。

ラーニング・イノベーション・グロースが嵐のように降り注ぐ。それは、働く人にとって最高に楽しい環境です。心理的安全性に、その鍵があります。


*1
出所)エイミー・C・エドモンドソン『チームが機能するとはどういうことか  「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』(Japanese Edition) (Kindle の位置No.2103-2104). Kindle 版. 

*2
出所)エイミー・C・エドモンドソン『恐れのない組織「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.645-646). Kindle 版. 

*3
出所)エイミー・C・エドモンドソン『恐れのない組織「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』(Japanese Edition) (Kindle の位置No.512-513). Kindle 版. 

*4
出所)エイミー・C・エドモンドソン『チームが機能するとはどういうことか  「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ 』(Japanese Edition) (Kindle の位置No.2106-2111). Kindle 版. 
三島つむぎ

この記事を書いた人

三島つむぎ

ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。